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名古屋地方裁判所 昭和36年(ヨ)251号 判決

判  決

申請人

学校法人名城大学

右代表者理事長

大橋光雄

参加人

大橋光雄

参加人

伴林

参加人

兼松豊次郎

右四名訴訟代理人弁護士

津田騰三

右同

山口源一

被申請人

加藤真一

被申請人

青木茂一

被申請人

小島旋三

被申請人

松沢淳

被申請人

鈴木清一

被申請人

日比野信一

被申請人

村井藤十郎

被申請人

小沢久之丞

被申請人

宮脇勝一

被申請人

玉虫雄蔵

被申請人

柴山昇

右十一名訴訟代理人弁護士

亀井正男

右同

村井藤十郎

右同

佐治良三

右同

柘植欧外

右同

太田耕治

右同

高須宏夫

右当事者間の昭和三六年(ヨ)第二五一、第七四一、第八一五、第八一六号仮処分申請事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、被申請人日比野信一は、申請人の為めに受験料、入学金、授業料として収受し、保持する金員を名古屋地方裁判所の選任する管理人に引渡さなければならない。

右管理人の選任は別に行う。

二、被申請人日比野信一は、前項管理人に引渡す以外には、如何なる名義を以てするを問わず、又何人よりを問わず、受験料、入学金、授業料又はそれに相当する金員を収受し、借入れてはならない。

三、被申請人日比野信一は、授業実施の為めの経費についてはその使途金額を明確にした上、第一項の管理人に対し、その交付を求めることができる。

管理人は右金額使途が妥当のものでないと認めた場合のほかはその請求を拒否してはならない。

四、被申請人日比野信一は、前項の経費を支出した時は、速かにその計算及び支出の結果を、これを証する書面を添付して管理人に報告しなければならない。

五、第一項の管理人は、申請人の必要とする法人管理費の支出についても第三項に準じて支出することができる。

六、申請人の被申請人加藤真一、同青木茂一、同小島旋三、同松沢淳、同鈴木清一、同村井藤十郎、同小沢久之丞、同宮脇勝一、同玉虫雄蔵、柴山昇に対する仮処分申請は却下する。

七、参加人大橋光雄、伴林、同兼松豊次郎の共同訴訟参加としての参加申出は却下する。

八、訴訟費用中申請人及び参加人等と被申請人日比野信一との間に生じた分(補助参加の分を含む)はすべて被申請人日比野信一の負担とし、申請人及び参加人等と爾余の被申請人等との間に生じた分(共同訴訟参加の分を含む)はすべて申請人又び右参加人等の負担とする。

事実

申請人の申立及び主張

被申請人全員に対する申請の趣旨

一、被申請人等は、被申請人等が申請人の為めに受験料、入学金、授業料として収受し、保持する金員を計算書と共に、当裁判所の選任する管理人に引渡さなければならない。

二、被申請人等は、前項の管理人に引受す以外には、如何なる名儀を以てするを問わず、又何人からするを問わず、受験料、入学金、授業料又はそれに相当する金員を収受し、借入れてはならない。

三、被申請人等は、授業実施の為めの経費については、その使途金額を明確にした上、理事会の議を経て第一項の管理人に対し、その交付を求めることが出来る。

四、被申請人等は、前項の経費を支出したる時は、速かにその計算及び支出の結果を、これを証する書面を添付して管理人に報告しなければならない。

五、第一項の管理人は、申請人の必要とする法人管理費の支出についても第三項に準じて支出することができる。

被申請人加藤、青木、小島、松沢、鈴木に対する予備的申請の趣旨

被申請人等は、その部員をして前記第二項の行為をせしめてはならず、又労働金庫に対する金員預入れの取次の委託を受けてはならない。

申請理由

一、申請人は大学教育施設を経営する学校法人である。

二、被申請人日比野は申請人の設置する名城大学の学長(自称)

同村井は同大学法商学部長

同小沢は同大学理工学部長

同宮脇は同大学農学部長

同玉虫は同大学薬学部長

同柴山は短期大学部長

であり、いづれも申請人理事会の意思に反して違法に経営を管理し、その収入、支出金を不法に支配していた者である。

三、被申請人加藤は申請人が設置する名城大学の第二法科事務長

同青木は同大学商学部事務長

同小島は同大学第二商科事務長

同松沢は同大学薬学部事務長

同鈴木は同大学理工学部事務長

でありいづれも各学部の会計を担当するものである。

四、申請人においては、昭和三十四年八月以来、教職員の一部による違法な経営管理が行われている。

即ち学生を唆かして授業料の不納同盟を行わしめ、授業料、入学金などの実質を有する金員を学生から借入金名義などで徴収し、労働金庫に預入れてこれを引出し、使用し

或いは、何人の決裁も経ずに昭和三十六年六月理工学部において不法建築を始め、或いは右収入金を給料支払、設備費等正当な目的に使用せず、個人の不正使用、国会に対する運動費用、訴訟費等に不当に使用され、学生の貴重な金員が濫費され、また私立大学職員健康保険組合への掛金不払のため、現在既に二千万円近い債務を負担せしめ、その他の債務の利息と共に毎月約八十万円の債務が累加し、駒方町に存在する名城大学法商学部の校舎の敷地に対する地代不払の為地主から破産申請を受けており、また教職員、守田広海等に対し給料の支払を停止するなど違法且つ不当な経営管理が続いており、昭和三十五年八月理事長職務代行者浦部全徳が選任されたが、同人の下においても右のような違法管理が続行された。

五、右のような状態が今後も継続すれば、申請人の経営が危殆に頻すること明らかである。

よつて本訴提起前に本件申請に及ぶ緊急の必要がある。

被申請人の申立及び主張

申請の却下を求める。

申請は不適法である。

本件申請は申請人代表者大橋光雄から訴訟委任を受けた山口弁護士が提起したものであるが、大橋は次の理由により申請人を代表し得ず、従つて右申請提起行為は代表者でない者から委任を受けた無権代理人のなした不適法なものである。

(一)  大橋は申請人の理事及び理事長でない。

(二)  大橋は昭和三十五年四月末日附で、申請人における一切の役員を辞職する旨の辞任届を申請人理事会宛に作成、提出し右辞任届は文郎省に寄託された。

(三)  大橋が理事、理事長であるとしても、その旨の登記がないから被申請人に対抗し得ない。

二、申請は理由がない。

申請理由中一及び二、三中被申請人の地位は認める(但し宮脇の地位は否認)が、その余は全部否認する。

被申請人日比野以下の学長及び各学部長は教学上の事務統括者であり、会計事務とは無関係であり、被申請人加藤以下の各事務長はその長に属する会計その他の事務の監督に当るべき地位にあり直接会計事務は取扱わず、それは会計係が行う。

授業料などに相当する金員は名城大学学生会がその名において愛知労働金庫に預入れているが、この措置は、多年に亘る理事間の紛争のため学生が自らとつた非常措置で、名古屋地裁昭和三四年(ワ)第二〇二二号事件判決においても己むを得ないものとして肯認されており、被申請人加藤以下の事務長は学生会から右金庫への金員預入れの取次の委託を受けてこれを扱うことあるに過ぎない。

申請人

大橋光雄は申請人を代表する権限を有する。

同人は申請人の理事、理事長である。

(一)  理事であることは名古屋地裁昭和三五年(ヨ)第五二八、六八二号事件判決で仮に定められている。

(二)  昭和三十六年二月十八日理事長に互選された。

(三)  その地位は登記なくとも対内的には主張し得る。

(四)  被申請人主張の辞任届は、心構えを表明したものであり、また後にこれを撤回した。

仮に理事長でなくとも理事として代表権を有する。

大橋、伴、兼松の参加申出の趣旨、理由

申出人等はいづれも申請人の理事であるから申請につき共通の利害を有する。よつて民訴法第七五条により申請人のなす第二五一、第七四一号仮処分事件に参加する。

申請の趣旨、理由は申請人申立、主張のものと同じ

被申請人

右参加には異議がある。

証拠関係<省略>

理由

第一、大橋光雄、伴林、兼松豊次郎の参加申出について。

大橋等三名は、申請人の理事であり、訴訟の結果につき共通の利害を有するとの理由により、申請人の被申請人等に対する第二五一、第七四一号仮処分事件に民事訴訟法第七十五条により共同訴訴訟参加をなす旨申出た。

もともと、共同訴訟参加は、訴訟の結果に利害関係を有するだけでは足らず、判決の効力が合一に確定すべきとき、即ち参加後は必要的、共同訴訟形態をとる場合に始めて許されるものであるが、法人たる申請人の提起する仮処分申請とその理事たる地位を有しはするが個人として提起する大橋等の仮処分申請とはその被保全権利を異にし、従つてこれに対する判決が相互にその効力を及ぼさない事明らかであるから、右共同訴訟参加の申出は不適法たるを免れない。

然しながら、参加人に共同訴訟参加としては不適法であつても民事訴訟法第六十四条の補助参加人として訴訟行為をなす意思が認められ、且つその参加に同法所定の補助参加の要件が具わつている場合には補助参加の範囲においてその参加申出を許容するのが相当である処、弁論の全趣旨によれば大橋等三名には右補助参加が認められない訳でもなく、且つ大橋は成立に争のない疏甲第一号証により、伴、兼松は成立に争のない疏乙第一号証により、いずれも申請人の理事たる地位を有するものと認められる上、同人等は理事として申請人の本件仮処分申請の結果に法律上の利害関係を有するものと考えられるから結局、右参加の申出は、共同訴訟参加としては却下するが、補助参加の範囲においてこれを適法として容認することにする(なお、右共同訴訟参加の申出は性質上、独自の仮処分申請を伴い、両者は、一体をなしているから、右共同訴訟参加申出の却下は当然右仮処分申請の却下をも含み、従つて別に仮処分申請の却下を判決主文に掲げる必要はないものと解する)。

第二、大橋光雄の代表権の存否について。

被申請人等は、申請人代表者大橋光雄の代表権を争うからこの点について判断する。

一、(疏明)を綜合すると、大橋光雄は当裁判所昭和三五年(ヨ)第五二八、第六八二号仮処分判決により、申請人の理事たる地位を仮りに定められ、且つ右判決において、当裁判所は、申請外田中寿一の申請人の理事長たる職務の執行を停止し、申請外浦部全徳をその職務代行者に選任したが、後に右職務執行停止代行者選任仮処分申請は取下げられて右部分に対する前記仮処分判決は失効し、更にその後、昭和三十六年二月十八日、大橋光雄は申請人理事会において申請人理事長に互選された事実が推認される。

二、また被申請人等は大橋光雄は昭和三十五年四月末日日附で申請人における一切の役職を辞任する旨の届出をなしたと主張し、成立に争のない疏乙第十六号証によれば一応右事実を認め得るが、成立に争のない疏甲第二十号証によれば、右辞任届が確定的な辞任の意思を表明するものかについては疑いがあり、剰え大橋光雄が前記理事長に互選されたのはその後である昭和三十六年二月十八日であるから、いずれにしても右事実は大橋光雄の現在における理事長たる地位の存否を左右するものとは考えられない。

三、更に被申請人等は登記の欠缺を主張する。

なるほど、私立学校法第二十八条第二項によれば、登記事項は登記後でなければ第三者に対抗できない旨規定し、私立学校法施行令第一条第二項第六号私立学校法第三十五条によれば理事長たる地位は登記事項と解される処、前顕疏乙第一号証によれば大橋光雄は現在理事長として登記されていない。

然しながら、右登記よる理事などの地位の公示は主として法人と取引関係に立つ善意の第三者を保護することを目的とするものであるから、被申請人等のように申請人が設置する名城大学の学長または学部長事務長らのように申請人の内部機構に属する者に対しては前記、公示の消極的原則は適用がないものと解するのが相当であり、従つてこの点に関する被申請人等の主張は採用できず、結局大橋光雄は理事長として申請人を適法に代表するものと言わざるを得ない。

第三、被保全権利の存否について。

一、申請人の主張、並びに弁論の全趣旨を照らすと、本件仮処分事件における被保全権利は、申請人の設置する名城大学(短期大学を含む、以下同じ)の入学試験を受験し、または同校に存学する者から申請人が受験料、入学金並びに授業料を微収し、これを保持し利用するという基本的権利に対する被申請人等の妨害及び妨害の虞れから生ずる、右授業料等の金員の引渡請求権及びその妨害差止請求権であると考えられるから、以下右被保全権利の存否について判断する。

二、申請人が大学教育施設を経営する学校法人であること並びに被申請人加藤真一、同青木茂一、同小島旋三、同松沢淳、同鈴木清一が申請人主張のように名城大学各学部の、事務長であ、被申請人日比野信一が同大学、学長であり、被申請人村井藤十郎、同小沢久之丞、同玉虫雄蔵、同柴山昇が申請人主張のように名城大学各学部の学部長であることは当事者間に争いなく、また、成立に争のない疏甲第十九号証によると、被申請人宮脇勝一は申請人主張のように名城大学農学部長であるものと一応認められる。

三、更に、申請人内部に、長年に亘り、その経営管理をめぐり、理事と教職員、学生等の間に紛争が存すること公知の事実であり、(疏明)を総合すると、名城大学法商学部など各学部の学生会またはその代表者よりなる全学生協議会は、昭和三十四年九月二十六日以来主として理事の学校管理の不当を理由に、授業料等(在学生の決議である以上、受験料、入学金はこれに含まれないものと考えられる)の無期限延納の意思を表明し、前記決議後、学生は授業料または実験実習費等学費に相当する金員を学生会に預託し、学生会は同会名義でこれを愛知労働金庫に預入れ、現在に至つている事実、昭和三十四年十一月頃、名城大学に学生協議会、教職員組合及び教授よりなる協議会の三者により所謂、三者審議会が結成され、名城大学の学長である被申請人日比野信一が同会の代表者的地位にあるという事実、爾来、名城大学の受験者、入学者が納入する受験料、入学金は各学部会計窓口を経て被申請人日比野信一が受領し、前記愛知労働金庫に預入れている事実、右労働金庫に預入れられた授業料担当の金員は、右三者審議会の決議を経て学校運営費として被申請人日比野信一及び生活資金として教職員組合に貸付けられている事実、学生は入学に際し授業料等学費を延納する旨届出をなし、卒業に当つては問題解決の場合における、前記被申請人日比野信一等に対する預託貸付金の学費への転換その他の処分の権限を被申請人日比野信一に一任する旨の委任状を提出している事実がそれぞれ一応認められる。

四、右事実による、現在名城大学においては学生が授業料に担当する金員を被申請人日比野信一に貸付け、受験料、入学金は同人がこれを受領するという方法で学校経営費が収入されているのみならず前記三者審議会の審議を経て被申請人日比野信一によつてそれが支出されている事実が一応推認されるが、このような学校経営管理が変則的なものであることは明らかであり、また、かかる管理形式をとるようになつた動機、原因は何であれ、そのような状態が長期間継続され、それが固定化するということは被申請人等の主張する緊急状態の域を逸脱し、所謂、生産管理が通常違法視されると同じく、私的所有権の尊重、それに基く理事による法人管理、更に闘争手段の平等という基本的原理に反し、現行法秩序上においては許されないものと言わねばならない。

五、処で、受験料、入学金は名目上も受験料、入学金として受領されていること前記のとおりであるが、授業料に関しては前記認定のように延納決議がなされ、授業料担当の金員として預託されているからここで右金員の性質について考える必要がある。

先づ、学校法人に帰属する教育上の物的設備、人的機構を利用し、それにより教育を受け、または一定の資格を取得する等の各種の利益を享ける学生が右利益と対価的関係にある金員として授業料納入義務負うべきことは当然であるから、名城大学の学生は申請人に帰属すること明らかな各施設、機構を利用し、享益している以上、たとえ学内に前記のような紛争が存するとしても申請人に対する授業料納入義務を免れるものでなく、従つて若し前記預託金が授業料でなければ学生は無償で授業を受け、卒業するか、或いは申請人以外の者に対し、金員を貸付けることを対価として右の諸施設、機構を利用し得るという社会通念に反する事態が生ずることになり、更に前記授業料延納決議後の所謂、授業料相当金員の金額、預託の時期、その取扱い方法、預託の効果等を検討すると、前顕証拠によれば、右預託金は常に授業料、実験実習費等に相当すように分類された一定額であり、且つ預託の時期も学期毎に分けられ、且つ指定されており、また、右延納決議後極めて短期間は愛知労働金庫より係員が学内に出張してその受入れ事務を行つたが、その後は各学部会計係員がその会計窓口において学生より金員を受領し、且つこの領収に際してはABC等符号と金額を記載した預り証を発行するが、場合によつては、授業料なる旨を明示した領収証を発行することもあり、更に右預託金の払込に対しては学期試験の受験票が発行され、この受験票を所持しないと受験することができないから学生は事実上右金員預託を強制され、若し右払込をなさずに受験する場合には延納届を提出することが必要とされていることがそれぞれ一応認められ、これらを総合すると前記学生の預託金は授業料としての実質を有し、授業料と同様の手続と効果を伴うものと推認するのが相当と考えられる。

そうすると右預託金を払込んだ学生は授業料等の学費を納入したことになり、従つてこれら金員は法律上、申請人に帰属し、その支配に服すべきものであり、この基本的権利が侵害され、または侵害される虞がある場合には、それの返還または妨害行為の差止請求権が発生することになる。

六、而して申請人の場合、前述来の各認定によると授験料、入学金、授業料はいづれもその支配下になく、使つてそれに対する、申請人の権利は侵害されているものと一応認められるが、被保全権利の疏明ありとするためには、これに対し被申請人等が如何なる役割を果しているか、即ち被申請人等が現に右金員を収受、保管、使用し、将来もそれを継続し申請人の前述の権利を侵害し、侵害する虞れがあるか否かが明らかにされねばならぬ。

七、先づ受験料、入学金について考えると、前記認定のように、これらの金員は名城大学の学長であり、前記三者審議会の代表者的地位にある被申請人日比野信一において受領し愛知労働金庫に預入れられているほか第三の三列挙の前顕証拠による同人が右金員を学校運営費その他に使用している事実が一応認められる。

而して、これら受験料、入学金が法律上、申請人に帰属するものであることを前述のように明らかであり、一方弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる、疏甲第十号証(申請人寄附行為)の第七条第一項により被申請人日比野信一が名城大学の学長たることにより当然申請人の理事たる地位にあるとしても、申請人より特別の授権、同意等がない限り単独で右金員を受領し、保管し使用する権限を有しないわけであるから、被申請人日比野信一は受験料、入学金を権限なくして現に保管し且つ使用して申請人の前記権利を侵害しているばかりでなく、前記認定事実を綜合すると将来も引続き右侵害行為をなす可能性が推測される。

なお証人工匠忠雄は右受験料、入学金は前記学生会よりの預託借入の返済に充てている旨供述するが右預託金が授業料の性質を有することを前記認定のとおりである以上、同供述は措信できず、ほかに以上認定を左右するに足る疏明は存しない。

次に爾余の被申請人についての申請人の権利侵害とその虞れの有無を検討すると、名城大学の学部長である被申請人村井藤十郎、同小沢久之丞、同宮脇勝一、同玉虫雄蔵、同柴山昇は第三の三列挙の前顕証拠によれば、前記三者審議会に属し、且つ一応枢要な地位にあるものと推測され、証人守田広海は右学部長たる被申請人等が受験料、入学金の預金通帳の印鑑を掌握し、これら金員を保管する旨供述しているが同証人の供述は、前記証人工匠忠雄の供述に照らすとたやすく措信できず、ほかに右被申請人等が、単独に、または前記被申請人日比野信一と共同して右受験料、入学金を受領し、保管しま(以下十五字不明)おいてそれを行う虞れありと確認させるに足る疏明は存しない。

また被申請人加藤真一、同青木茂一、同小島旋三、同松沢淳、同鈴木清一等名城大学の事務長たる地位にある者は、前記三者審議会において如何なる地位を占めているか明らかでなく、またたとえ同人等が各学郎の会計事務に関し、監督者的立場にあり、その立場において右受験料、入学金の領収に関与したとしても、前記認定のように右金員は結局被申請人日比野信一の保管に帰するものであるから、所詮学生と被申請人日比野信一間に介在する金銭受領の補助機関たるに止まるものと一応考えられ、そうすると受験料、入学金は事務長たる被申請人等が握つていると証人守田広海の供述はたやすく措信できず、いずれにしても右事務長たる被申請人等については、前記学部長たる被申請人等についてと同じく、被保全権利の疏明はないものと言わざるを得ない。

八、最後に授業料について被申請人等の権利侵害とその虞れの有無を検討すると学生が学生会名義で愛知労働金庫に預託している金員が授業料の性質を有するものであること前記認定のとおりであるから、たとえこれら預託金が三者審議会の決議を経て被申請人日比野信一に貸付けられるものであるとしても結局それは学生が授業料を納入しそれが被申請人日比野信一の手に渡るという実質的行為を、右預託金の貸付という迂回した形式的行為をもつて代えていることになると考えられ、更に被申請人日比野信一に右授業料を単独に保管し使用する権限のないこと前述したとおりであるから、右授業料に関しても、前記、受験料、入学金に関して述べたと同じ理由により被申請人日比野信一は申請人の授業料に対する権利を現に侵害し、且つ将来も侵害する虞れがあるものと言わなければならない。

然しながら、村井藤十郎以下五名の学部長たる被申請人等、及び加藤真一以下五名の事務長たる被申請人等に右授業料に関し申請人権利侵害の事実及びその虞れが存することについては、前記受験料、入学金に関し述べたと同じくそれを推認されるに足りる疏明は存しない。

九、以上要約すれば、申請人の被保全権利は被申請人日比野信一に関してはすべて疎明があるが、爾余の被申請人等に関してはその疏明がないというに帰する。

そこで、次に右被申請人日比野信一に対する本件仮処分申請についてその必要性が存するか否かを判断する。

第四、必要性の存否について。

被申請人日比野信一が前記三者審議会の代表的地位にあり、同人または同会を中心として申請人の経営管理が行われ、右管理が変則的且つ違法なものであること前記認定のとおりであるが、(疏明)を総合すると、右申請人における変則的経営管理は理事長職務代行者として前記申請外浦部全徳が当裁判所により選任されても解消されず、且つ現在その計理状態は良好と言えず、銀行及び共済組合に対する利子が不払により漸次嵩み、学校敷地の賃借料不払のため債権者より当裁判所に対し破産申請がなされ、更に理事会の決議を経ずに校舎を建築している事実が一応認められる。かかる事実が現に存し、且つ継続する虞れがある以上申請人の正規の経営管理は阻害され、遂にはその存立自体にも危きを生ずる可能性があるから本件仮処分により申請人の前記被保全権利を保全する緊急の必要性があるものと考えられる。

第五、結論

そうすれば、申請人の被申請人日比野信一に対する本件仮処分申請は理由があるからこれを認容し、申請の趣旨の範囲内において当裁判所が適当と認める主文掲記の処分をなすこととするが、爾余の被申請人等に関しては被保全権利の疏明のないこと前述のとおりであり、これを保証をもつて代えしめることは相当でないから申請を却下し、大橋光雄等三名の共同訴訟参加としての申出は前述の理由によりこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第九十四条、第九十三条、第八十九条、第九十二条を適用し注文のとおり判決する。

なお、昭和三十七年三月二十日附書面(同月二十二日受付)により、申請外小島未吉は、申請人学校法人名城大学の理事としてこれを代表し、同学校法人のなした本件仮処分申請を取下げたが、同人の右申請の取下は次の理由により無効のものと認められる。

即ち、右取下書添付の当裁判所仮処分判決によると、同人は右学校法人の理事たる地位にあると認められ、また法律上、私立学校法人においては各自理事が代表権を有するのが原則とされてはいるが(私立学校法三七条本文)、同時に寄附行為によりそれを制限することが許され(同条但書)、而して前顕疏甲第十号証の右学校法人寄附行為によると学校法人名城大学においては理事長のみが法人代表権を有し、その他の理事はこれを有しないとされており、また前顕疏乙第一号証によるとその旨の登記もなされていることが認められるから、理事長ではなくその他の理事に過ぎないと認められる申請外小島未吉には右学校法人を代表すべき権限はないものと言わざるを得ない。

但し、右のような理事の代表権の制限が存しても、理事長が欠け、またはそれと同視すべき重大な事故ある場合には寄附行為の解釈上、理事の代表権制限は一時的に消減し、前記法律上の原則に戻つて右自理事に代表権が復活するとみる可能性は存するが、本件においては既述のように大橋光雄が右学校法人の理事長と認められるから、理事長の欠缺事故はなく、従つて理事の各自代表権復活の余地はない。

尤も、当事者が学校法人名城大学には理事長が存在しないから理事が各自代表権を有するとして訴訟を提起した場合、代表権の存否は所謂、職権調査事項であるが、裁判所が積極的にあらゆる資料を蒐集してその存否を探知する程の強い義務を負うとは考えられず、主として当事者提出の資料に基いてそれを調査すれば足りるのであるから、右学校法人の寄附行為に右述のような理事の代表権の制限が存するとの事実が資料上現われず、また仮りにその事実が現われたとしても資料上理事長の存否が不明の場合にはそれを理事長の欠缺と同視し、寄附行為の解釈上、法律上の原則である理事の各自代表権が復活するとして理事長以外の理事の代表行為を容認することはあり得るが、本件においては証拠資料上右学校法人には大橋光雄なる理事長が存すると認められること前述のとおりであるから、右のような特別の解釈による理事以外の理事の代表権の承認という結果は生じないのである。

いずれにしても申請外小島末吉は理事であつても本件においては学校法人名城大学の代表権を有せず、従つてそれがなした前記本件申請の取下は無効と断ずるほかはない。

名古屋地方裁判所民事第三部

裁判長裁判官 木 戸 和喜男

裁判官 川 端   浩

裁判官 上 杉 晴一郎

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